2024/11/05

大阪市立東洋陶磁美術館 元時代の青花と青磁


コロナ禍、美術館の改装という長い空白後、やっと東洋陶磁美術館がリニューアルオープンしたので、久しぶりに楽しんできた。
メトロ御堂筋線淀屋橋駅から出て橋を渡っていると、中之島図書館、中央公会堂とレトロな建物の向こうに低い東洋陶磁美術館の建物が木々の間から見えているのに気が付いた。

街路樹の森を抜けると、横長の東洋陶磁美術館が少し西側に伸びたようだったが、それよりも車がほとんど通らず、歩道の段差もない、広々とした空間になっていることに驚いた。
右の建物は京阪中之島線なにわ橋駅。


レンガ造りの建物からガラス張りの部分が付け足されていて、中に入った人たちがそのガラス張りのホールをどんどん通っている。まだ開館の10時になってへんのに。

なんか時空間の違うところに来てしまったよう。入口を入ると、今までは右方向に進んでいたのに、左へどうぞと言われた。受付がその先にあり、続いて左へ。ぐるりと回り込んだこの階段から二階の展示室へ上がるようになっている。もちろんエレベータもあるけれど、このカーブした階段を上ってみたいやん。



最初の展示室は「ザ・ベストMOCOコレクション 天下無敵」
説明パネルは、大阪市立東洋陶磁美術館(MOCO-モコ)では、このたび約2年間の改修工事を終え、リニューアルオープンします。周辺環境をはじめとした時代の変化を踏まえ、より多くの市民や利用者の皆様に親しまれ、さまざまな人々とつながる陶磁専門美術館に生まれ変わることを目指しました。
本展では、MOCOが世界に誇る「安宅コレクション」や「李秉昌コレクション」を中心とした珠玉の東洋陶磁コレクションなど約300点を、装い新たにご覧いただきます。タイトルの「シン」には、「新」たなミュージアムへと歩み始めること、「真」の美しさとの出会い、「心」がワクワクする鑑賞体験を、という3つの願いを込めています。
コレクションの新たな魅力と価値に出会える、「シン・東洋陶磁」をご体感くださいという。

展示室そのものは変わっていなかった。

コーナーごとに写真家六田知弘氏の「壁の記憶」というパネルが掛けてあった。

ちょっとましなカメラで写すと、縦横が曲線になるのが難点。



今回は改装後の記念展なので様々な時代の東アジアの陶磁器が展示されていた。ちょうどトプカプ宮殿博物館の元時代の青花(染付)と青磁をまとめたところなので、当館の所蔵品と見比べてみよう。

青花龍牡丹唐草文双耳壺 元時代(14世紀)景徳鎮窯 住友グループ寄贈(安宅コレクション)
説明パネルは、イスラム圏から輸入された最上質のコバルト顔料による鮮麗な青色を見せる元時代特有の大型の青花磁器である。胴部中央には雲龍と牡丹唐草の二種の文様帯がめぐる。江西省高安市の 遺跡からは、蓋を伴い鋪首に金属の環が付けられた遺例が出土しているという。

頸部の文様
口縁には卍字繋文が変化してきたような帯文様、その下には五弁花の蔓草文、丸い盛り上がりの下には大きな蔓草文が巡る。 

肩部の文様
龍は双角だが三爪。周りに浮かぶ雲の表現が面白い。

胴部の文様
どっしりとした花の牡丹唐草文。花弁の縁に白っぽい切れ込みがある。これはトプカプ宮殿博物館蔵青花牡丹唐草文瓢形瓶の牡丹に似てるが、文様としてはこちらの方が完成度が高い。

上図は牡丹の花がやや下向きになっているが、その続きには開き始めの蕾や、額を描いて下から見上げたような描き方をしている。



青花牡丹唐草文梅瓶(めいぴん)
元時代(14世紀)景徳鎮窯 住友グループ寄贈(安宅コレクション)
説明パネルは、胴部中央には牡丹唐草文が描かれ、その上下の区画は白無地の余白として残すことで、鮮やかな青花文様を引き立てるとともに、白磁の清純な白さも際立っている。口が小さく肩の張った「梅瓶」と呼ばれる器形で、酒瓶とされる。本来は蓋を伴っていたことが出土例から分かるという。

トプカプ宮殿博物館の所蔵品はほぼ全体が文様で埋め尽くされていた。それがムスリムたちの好みだったのかというとそうではなく、『世界美術大全集東洋編7 元』で佐藤サアラ氏は、空白を余すところなく文様を描き詰めるのは元青花の大きな特徴の一つで、彩絵という新しい装飾表現手段を得て可能となったものという。またこのように余すところなく文様で埋め尽くすことをよく「空間恐怖」という言葉で表されてきたが、佐藤氏は「空間忌避」とする。私も後者の表現の方が適していると思う。

背伸びして肩部の唐草文様を写したがピンボケ。気付かなかった肩の釉薬の焦にピントが合ってしまった。

胴部の牡丹は横から見た構図で、花弁は
トプカプ宮殿博物館蔵青花牡丹唐草文瓢形瓶の牡丹に似る。
写し方が変になってしまったが、花弁や葉には点々で葉脈を表したような、筆の面で塗っただけではない細かな描き方をしている。

脚部にはラマ式蓮弁。



青花牡丹唐草文盤 重要文化財 
説明パネルは、内面中央には上面、側面、裏面から描かれた牡丹の花四種が配されている。白に青が映える青花は、イスラム圏など海外にも輸出され人気を博したという。
牡丹は、下から時計回りに、横から見た満開の花、真上から見た満開の花、横から見た開き掛けの花、下から見上げた満開の花。元代は花を大きく、葉は小さく、蔓を細く描いている。
それが明代の宣徳期(15世紀前半)になると二重蔓になってくる。金地二重蔓牡丹唐草紋金襴のように。

花びらや葉には脈が細い線刻で表され、溜まったコバルト顔料が文様に陰影を与えているという。

下から見上げたような花を描くって陶工の遊び心?


口縁部は蔓草文だろうが、渦巻きと別の蔓とが合流して、もこもこ感があって、雲気のようにも見える。



宝相華唐草文盤 元時代(14世紀) 景德鎮窯 東畑謙三氏寄贈
説明パネルは、内面中央に吉祥を表す六つの宝文を置き、宝相華唐草文、波濤文、牡丹唐草文が同心円状に配されているという。
 
 波濤文が、口縁部と見込みの二つの文様の間に描かれているが、向きが反対。
 
一部、コバルト顔料で地を塗りつぶして文様を白抜きで表す変化をつけている。こうした文様意匠にはイスラム圏の金属器の影響がうかがえるという。
 
このようなことを言っているのだろうか。
アルトゥク朝時代(1108-1409)の青銅製大鍋 13世紀初期


青花蓮池魚藻文壺 重要文化財 元時代(14世紀)景徳鎮窯 住友グループ寄贈(安宅コレクション)
説明パネルは、胴には、蓮池を泳ぐ鱖魚をはじめとした様々な姿の魚がコバルト(呉須)で描かれている。元時代の絵画に流行した魚藻図とも通じ、蓮池魚藻の世界が壺に展開した元時代の青花磁器の傑作である。こうした形の壺は酒用とされ、本来は蓋を伴っていたという。
トプカプ宮殿博物館にはこういう魚の描かれた器が多かったような印象を持っていたが、前回まとめていて、意外と少なかったのだった。
この作品は回転台に乗せてあるので、ゆっくり眺めていると別の面も見ることができた。

風に翻る蓮の葉、間から顔を出した実、一連のなびく葉が上下に描かれ、3枚の丸い葉は浮き草のよう。水面でもなく、水中でもない。


続いて現れた魚は、下顎が突き出ているのでオスの鮭だろうか。


ここには蓮の花はなく、すべて実。これはまだ花びらが残っていて、その中から花托が出てきている。
右の2匹の魚は大きな鮭に出くわして目を白黒させているみたい。
初秋の光景だろうか。

口縁部の波濤文は執念とも思えるほどに執拗に波の線を描いている。


青磁

飛青磁花生 国宝
元時代(14世紀) 龍泉窯 住友グループ寄贈(安宅コレクション)
説明パネルは、鉄斑を散らした青磁は、日本では「飛青磁」と呼ばれている。優美な形のこうした瓶は中国では「玉壺春」の名で知られ、主に酒器として用いられたが、日本では花器として珍重された。本作は鴻池家伝来品で、伝世する飛青磁花生の最高傑作といえるという。

完全に磁器に焼き上がっているので貫入はない。なんとなく轆轤目があるように見えるような・・・


元時代の青磁がこれ一点とは。



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