2013/07/26

古代ガラス展3 レースガラス



レースガラスというものがある。
昔、あるガラスの番組で、細いレースガラス棒を溶かしたガラスに巻きつけて、吹いて成形するのを見たことがある。
確か、レースガラス棒を斜めに並べて熱し、次に反対方向に斜めに並べて熱する。それを吹いて成形すると、レースが網のように交差する。その小さな菱形一つ一つの中に気泡が入る。
確か古代からのあった技法ではなく、ヴェネツィアン・グラスの手法だったと思う。
それをヴェネツィアのガラス工房の展示室で見かけたのでこっそり撮ってしまった。しかし、きっと手の届く値段だとは思えなかったので、グラスの底にある値札は見なかった。
古代ガラスに興味を持つようになって、それとは異なるレースガラスというものがあることを知った。

『古代ガラス色彩の饗宴展図録』は、ベネチアのレースガラスは有名ですが、はるか以前にレースガラスの技法は出現していました。ヘレニズムからローマ時代初期には、そのレース棒で器の口縁を巻いたり、碗型の底から巻き上げたり、碗型の口縁から口縁に向けて平行に往復したりしてレースガラスの器が作られましたという。

レースガラス皿 エジプトあるいは東地中海地域 前2-後1世紀 ガラス 高3.1㎝径13.6㎝ 個人蔵
無色透明ガラスに白色不透明ガラスを巻き付けたガラス棒を、螺旋状に巻き上げることにより制作された皿。口縁部は紫色透明ガラスに白色不透明ガラスを巻き付けたガラス棒を一周させ、色彩的なアクセントとする。器面は風化が著しいが、完成品。
光を通して器面を確認すると、無色透明ガラスに巻き付けられた白色不透明ガラスには一重と二重のものを組み合わせて使用している点、3~4本のガラス棒を平行して巻き上げている点など、高度な技法が用いられているという。 
スパイラルレースガラス碗 東地中海地域 伝クレタ島出土 前2世紀 ガラス(ナトロン) 高6.5㎝径11.4㎝ 大英博物館蔵
無色透明ガラスと青色透明ガラスを用いたガラス棒にそれぞれ、白色不透明、黄色不透明ガラスを巻き付けた4種類のガラス棒を、螺旋状に巻き上げることにより制作された碗。コア技法を用いたものと推定される。
ヘレニズム時代に入り、コア技法や熱垂下技法、モザイク技法を用いた容器が流行した背景には縞大理石や縞瑪瑙など自然石のもつ美への憧憬があるという。
やはりガラスは貴石などの代替品としての価値だったのだろうか。
それとも、自然界にある模様をガラスで再現したいという欲求だろうか。
色ガラス棒の美しさを損なわないよう4色のガラス棒を平行して巻き上げ、口縁部付近で収束する間隔まで計算された、高度で熟練の要する技術が用いられているという。

レースガラスの螺旋が伸びたりせずに、ほぼ等間隔で並んでいる。
会場では、松島巌氏がこのスパイラルレースガラス碗の復元制作したガラス碗も展示されていた。そして、その制作過程が動画で紹介されていて、興味深かった。硬く真っ直ぐな色ガラス棒を、バーナーの上で溶かしながらコアに貼り付けていくのが、かなり力の要る作業だということがよくわかったが、それが図録の図版では見えない。
下図は松島氏の制作したケイン(レースガラス棒)。
そして、上から見た松島氏制作のスパイラルレースガラス碗。痕・青・黄・白の螺旋の線が螺旋状に並んで縁へと上がってきて、目が回りそう。
松島氏は「復元制作を終えて」という文で、オリジナル作品にはガラスの乱れがほとんどなく、最適な温度管理のもとで神経を集中して作られた高度な作品であることがわかりました。
特別な技術はごく少数の秀でた職人あるいはグループ固有のもので、技の秘密は守られ衰退を早めることになったではないでしょうか。数千年後の現代まで残された古代ガラスの数々は、私にとって当時の職人の息吹を伝えてくれる貴重な玉手箱のように思えて、興味が尽きることはありませんと結んでいる。
確か、メソポタミアの粘土板文書に、一子相伝のガラス作りの秘伝書というのがあったはず。

そういえば、田上惠美子氏もレースガラスを使った「玻璃坏」というものを作っていることを、2012年7月23日付けの新作のそぞろごとで知った。氏のバセドウ眼症も心配だが、トンボ玉や金箔ガラスだけではなく、レースガラスの作品にも期待したい。

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関連項目
古代ガラス展5 金箔ガラスとその製作法
レースガラスはアンティキティラ島出土物にも
古代ガラス展2 青いガラス
古代ガラス-色彩の饗宴-展はまさに色彩の饗宴だった
その他ガラス・ファイアンスに関するものは多数

※参考文献
「古代ガラス 色彩の饗宴展図録」 MIHO MUSEUM・岡山市立オリエント美術館編 2013年 MIHO MUSEUM