今回の画像は全て敦煌莫高窟陳列館内のコピー窟で撮ったものです。
285窟西壁には仏倚像の大龕と両脇侍の小龕がある。
左小龕の龕楣
外側の火焔文は、南壁④に似ている。
内側の半アカンサス唐草文は、中央のパルメット状のアカンサスの葉と、その上の半アカンサスという組み合わせが7つ並んでいて、その蔓は唐草状にはなっておらず、半アカンサス唐草文は、4つの組み合わせからそれぞれ出た短い蔓で1つの文様を形成している。
右小龕
外側の火焔文は、左小龕と同じ。
内側の半アカンサス唐草文も同じだが、半アカンサスを合わせたパルメット状のものが、上下逆になっている。
中央のひときわ大きな龕には主尊の倚像がある。
『中国石窟敦煌莫高窟1』は、主尊は善跏坐佛像(仏倚像のこと)、高1.98m、着衣は褒衣博帯式通肩の袈裟、光背には多層の火焔文。龕内の両側には塑造の脇侍菩薩が1体ずつ、両側には三層にわたり各10体の供養菩薩、龕の頂部には飛天が描かれる。龕楣の外側には火焔状の連続忍冬文。楣の中には蓮華唐草。蓮華の中には化生童子が描かれている。横笛、腰鼓、琵琶、篳篥、排簫、法螺、曲項琵琶などで、全部で11体という。
主尊は中原風の服装をしている。鮮卑系の北魏時代、孝文帝が胡服を禁止して漢族の服を着るように服制を改めるなど漢化政策を推進したために、北魏後半から仏像の服装も漢族風になった。
その龕楣
外側の火焔文は、南壁小龕④のものに似ている。
内側は、半アカンサス唐草文の間に大きく11体の化生童子が描かれている。しかも、逆さの像があるなど、化生童子は龕楣の装飾モティーフの一つになってしまったかのようだ。
龕楣左側から
外の山が赤や緑、青などで横縞になっているのが面白い。
化生童子は、半アカンサス唐草文の中で出た茎から開いた蓮華から上半身を出している。蓮華がスカートのようでもある。
②合掌
③腰鼓
④合掌
龕楣中央部分
⑤五弦琵琶
その拡大
日本では正倉院に五弦琵琶が伝世しているせいか、琵琶が五弦か四弦かにこだわるが、中国では五弦琵琶と言わず、ただの琵琶と呼ばれているらしい。
⑥合掌
合わせた手を前に向けたところは描きにくいのか、右方向に曲げている。
⑦篳篥
龕楣右側
⑧合掌
⑨排蕭
⑩法螺
日本で見る法螺貝を吹いている場面では、貝はもっと大きいが、中国では小型のものを使っていたのかも。
⑪四弦琵琶
中国では曲頸琵琶という。確かに首が折れている。
このような化生童子が表されているということは、285窟の本尊は、阿弥陀如来ということになるだろう。
関連項目
敦煌莫高窟10 285窟の忍冬文
敦煌莫高窟9 285窟に南朝の影響
敦煌莫高窟8 285窟の天井を翔る雲気
アカンサス文と忍冬紋
第62回正倉院展3 あの五絃琵琶の細部
五弦琵琶は敦煌莫高窟にもあった
※参考文献
「中国石窟 敦煌莫高窟1」 敦煌文物研究所 1982年 文物出版社