2012/03/02

ウラルトゥの美術3 象牙

ウラルトゥの家具の部品には、青銅製品だけでなく、象牙細工もある。
『世界美術大全集東洋編16西アジア』は、象牙製の像、飾り板は、それ自体で独立していたものではなく、玉座をはじめとする家具を装飾していた一種の部品であったと考えられているという。

ライオン坐像 前8世紀後半 トルコ、アルトゥンテペ出土 金・象牙 高10㎝幅4.8㎝ アンカラ、アナトリア文明博物館蔵
象牙の飾り板やライオン像には金箔の一部が残っているものがあり、もともとは全体が金箔で覆われていたと考えられる。ライオン像は、牙をむき出して咆哮する表情をとらえ、獰猛さを強調する形で表現されているという。
ライオンは歩くなど横向きに表されることが多いが、このライオンは横向きに坐って、顔だけ前にむけて威嚇している。魔除けだったのだろう。
それにしてもこの尖った頭。
有翼精霊像 前8世紀後半 アルトゥンテペ出土 象牙 高12.4㎝ アナトリア文明博物館蔵
同書は、鳥頭有翼の精霊は、新アッシリアの浮彫りに表現されているのと同様、片手に松毬状のものを持ち、もう一方の手にバケツを持っている。衣服や装飾品などもアッシリアのものと共通しているという。
青銅製冑の生命の樹の横にいる有翼精霊は人頭だったが、これは鳥頭になっている。
こちらも左膝あたりの衣服に金箔が残っている。
生命の樹の表現や、人頭・鳥頭の有翼精霊というのは、アッシリアからもたらされたものだろう。ウラルトゥの領域、というよりもアナトリアではナツメヤシはできないからだ。

守護聖霊と聖樹 紀元前875-860年頃 ニムルド北西宮殿I室 石製板17? 縦141.0横95.0厚4.0 大英博物館蔵
『アッシリア大文明展図録』は、鷲の頭部を持つ有翼人物は、アッシリアの聖霊の古典的なタイプであり、この種の像は王宮の装飾に数多く使用された。右手に持つ円錐形のものは、アッシリアの文献によれば浄めの儀式に使うためのものであり、左手に持つバケツの中の液体に浸して使ったものと考えられる。
画面右手には、アッシリア美術において重要な意義を持つ聖樹の左半分が描かれている。幹の先端には大きなパルメット文(ナツメヤシの葉文)が描かれ、その周囲を連なり合ったパルメット文が取り巻いている。
アッシュール・ナシルパルⅡ世の治世において、呪術的な彫刻には頻繁に聖樹が描かれた。それはおそらく聖霊が守護している国土の豊穣を象徴しているのであろうという。
大きな浮彫と、小さな象牙細工とでは表現に違いは出てくるだろう。ウラルトゥの聖霊とは、翼が一番異なっている。
頭部は、アッシリアではかつらのような髪、ウラルトゥでは線状の飾りをつけている。アッシリアの鷲の顔も鋭いが、ウラルトゥの鷲はどちらかというとライオンのような表情に見える。

関連項目
生命の樹を遡る

※参考文献
「世界美術大全集東洋編16 西アジア」2000年 小学館
「大英博物館アッシリア大文明 芸術と帝国展図録」1996年 朝日新聞社