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2011/09/23
イスタンブール考古学博物館で思い出した2 アッシリアのラマッス
イスタンブール考古学博物館のオリエント館には、複数のライオン像があった。後期ヒッタイト時代の前8世紀頃のもので、出土地はばらばらだった。
それらについてはこちら
いずれも門に一対で置かれた内の1体だった。しかも、日本の狛犬のように左右に置かれるのではなく、門に組み込まれているために、メソポタミアのラマッスの影響ではないかと思った。
ラマッスとは人面有翼雄牛像のことだ。
『アッシリア大文明展図録』にサルゴンⅡ世(前721-705)が新都コルサバード(古代名ドゥル・シャルルキン)に造営した宮殿の発掘調査の写真があった。そこにはアーチ門を支える一対の人面有翼雄牛像がある。中央の人物と比べるとその大きさがわかる。
それが今ではパリにある。
人面有翼雄牛像 前721-705年 イラク、コルサバード、サルゴン2世の宮殿出土 アラバスター 高420㎝ ルーヴル美術館蔵
『世界美術大全集東洋編16西アジア』は、新アッシリア時代には、宮殿の主要な通路や出入口に、巨大な石製守護像が設置された。巨像は、肩までかかる髪と顎鬚を有する人間の頭部に、翼をもつ牡牛の身体を組み合わせた想像上の生き物として表現された。頭部はほぼ丸彫りに近く、身体部は巨大な一枚岩に高浮彫りで表現されている。巨像は前9世紀のアッシュールナツィルパル2世の時代から前7世紀のセンナケリブ王の時代までの宮殿建築に盛んに取り入れられたが、それ以降に造られた宮殿からは出土しない。
アッシリアでは、一般に守護像を「ラマッス」と総称し、なかでもとくに人面有翼牡牛像は「アラドランムー」と呼ばれたという。
この図版でラマッスの脚がはっきりとわかる。前方から見た時に静止しているように前脚を2本揃えているが、側面から見ると、歩いているように4本の脚が見えるように造られているために、計5本の脚が彫り出されている。尻尾は後ろに垂れている。
アッシリアの首都カルク(現在のニムルド)の遺跡にはラマッスがそのまま置かれている。
『メソポタミア文明展図録』は、アッシュールナツィルパルⅡ世(前883-859年)はアッシュールからカルクに遷都した。彼はアッシリア宮殿建築の規範となった新様式の豪華な宮殿を建てた。これは伝統的なメソポタミア煉瓦建築に対する大きな革新であり、その実質は装飾に石材を集中的に使用したことにあった。
これらのライオンあるいは有翼人面雄牛像は神格を示す角付き冠を着けていた。彼らの像は側柱の役を果たしており、頭から前脚までの半像は丸彫りで、胸あたりから後半身は高浮彫だった。正面からも側面からも見られるように五本脚を特徴としていたという。
アッシリアでラマッスが門を護るようになるのは前9世紀のアシュールナツィルパルⅡの時のことだったのか。
『アッシリア大文明展図録』は、アッシリアの彫刻作品の中で、見る者を最も威圧するのは、高さ5mにも及ぶ人面有翼雄牛像や人面有翼ライオン像などの巨大な守護像であろう。このような像は通常、30トンもの重さの岩塊から造られており、像を移動させるのはたいへんなことであった。その移動の様子は、センナケリブ(前704-681年)の宮殿から出土した浮き彫りに描かれているが、何百人もの男たちが力をあわせて荷ぞりに載せた巨像を引きずって動かした。
アッシュールナツィルパルⅡ世の宮殿からは、小さめの守護像も数多く出土している。部屋によっては守護像が浮き彫りで壁面に描かれているところもあり、いつの時代でもそれらは例外なく出入口に位置するように置かれているという。
後期ヒッタイトのあまり大きくないライオン像も、宮殿の門というよりも、部屋の出入口にあったものかも。
ところが、後期ヒッタイト時代には、新アッシリア帝国のラマッスよりも古いかも知れないライオン像があった。
城門のライオン 石灰岩 高124㎝ マラティヤ、アスランテペ 前10-9世紀 アンカラ、アナトリア文明博物館蔵
同館図録は、ヒッタイトの伝統的特徴を示しているという。
イスタンブール考古学博物館オリエント館の後期ヒッタイト時代のライオンと比べると、たてがみが巻き毛だったり、尻尾がラマッスのように後ろに垂れていたり、やや趣を異にしている。
それに、前10-9世紀と、他のライオンにくらべて早い時期のものだ。
アッシリアのレリーフとして有名な宮殿の浮彫壁面がヒッタイト帝国のオルトスタットを真似て制作されるようになったのなら、門を護る動物というのもヒッタイトから伝播したという可能性もあるのではないだろうか。
関連項目
イスタンブール考古学博物館6 古代オリエント館1
※参考文献
「アッシリア大文明展図録」(1996年 朝日新聞社)
「アナトリア文明博物館図録」(アンカラ、アナトリア文明博物館)
「四大文明 メソポタミア文明展図録」(2000年 NHK)
「世界美術大全集東洋編16 西アジア」(2000年 小学館)