2006/11/14

第五十八回正倉院展の鏡の魚々子はすごい



単眼鏡を昔から持っているが、持っていくのを忘れることがしばしばある。今回はしっかり持って行ったので、細かい文様をじっくり観察することができた。
今回細かさで群を抜いたのが、南倉蔵「金銀山水八卦背八角鏡」の毛彫りと地の魚々子(ななこ)文様ではないかと思う。
この鏡の解説文を読んでいて、自分に専門用語が乏しいことを痛感した。
解説文は、内・中・外の三区に分ける二重の界を紐状に打ち出し、文様および銘文は細かい蹴彫(けりぼり)で表し、鈕の周囲の海を除く文様部分に鍍金を施した後、間地を魚々子で埋めているという。
毛彫りではなく蹴彫、地ではなく間地というらしい。
下図の優美な唐草には「宝相華唐草」という名をつけている。上図の唐草の帯(中区)にところどころに派手な尾を持つ孔雀が開いた花の上に乗っている。これが宝相華なのか。私は宝相華にはもっと派手な、造花のようなイメージを持っているので、まだ唐花唐草の方が似合っている気がする。この唐草は日本的と言っても良いように思うが、花に乗る孔雀は日本的ではないなあ。
そして、間地にほどこされた細かい魚々子が、少し遠くから見ると線に見えるほど整然と穿たれているのには驚く。先程日本的と言った唐草だが、これだけの魚々子を表すことのできる工人が日本人にいたのだろうか。
もう1つ私が注目したのは鈕(ちゅう、中央のつまみ)の文様だった。こんな曲面にも魚々子が並んでいるのだが、その魚々子が表しているのは柿蔕ではないのだろうか。しかし、よく見ると魚々子の間地を鍍金に毛彫りした花びらが四方から包んでいる、つまり開きかけの蕾を表したものに見えてきた。
しかし、解説文は、内区には広大な山水景観を表している。鈕に四山を表しているという。
考えすぎでした。


※参考文献
「第五十八回正倉院展図録」2006年 奈良国立博物館