2014/04/29

ギリシア神殿11 格間天井に刳り形



アクロポリスの丘で一番驚いたのは、天井に石材の格間が並び、そこには何段かの刳り形があったことだ。
そもそもギリシア神殿には天井というものはなく、木の梁がわたり、その上に小屋組みを架けて、テラコッタなどの瓦葺き屋根としていたのだと思い込んでいたので、ギリシア時代の建物の中を通るという貴重な体験よりも、石材の格間の存在の方が記憶として強烈に残ってしまった。

まずアクロポリスの入口となっているプロピュライアをくぐっている時に格間に気づいた。

プロピュライア 前437-432年
石材の梁の間に格間が並んでいる。
刳りは3段ほどで、間に斜めの面を取ってあるため刳りの段がたくさんあるように見える。

次に、エレクテイオンの北柱廊の天井にもっと刳りの多い格間を発見。

エレクテイオン神殿 創建前421-406年、再建前395年
南の小さな柱廊を支えている人像柱(カリアティド)が一番の特徴だが、
北側に設けられた立派な柱廊を見ようと数段下りて行ってみると、
天井にはやはり格間になっていた。
しかも、プロピュライアの格間の刳り形よりもずっと多く、6段ほどあった。暑い石板をこのように彫っていって、重量軽減を図ったのではないだろうか。

パルテノンはそれほど復元作業が進んでおらず、遺構を見ただけでは天井に格間があるかどうかはわからなかった。

パルテノン神殿 前438-432年
格間に気づいたのは『ACROPOLIS THROUGH ITS MUSEUM』という本の想像復元図を見た時だった。
プロピュライアやエレクテイオンの格間とはかなり違うようだが、内室の木製天井にも、プロナオスの石造の天井にも格間らしきものが並んでいるようだ。おそらく発掘でそのような部品が出土したのだろう。
同書を見た後で、パルテノンの西側に置かれていたものが、その格間だったらしいことに気づいたのだった。
この格間はプロピュライアのものほどの刳りがない。多分、薄い石板に2段の刳りを造っただけのものだろう。
格間の刳り形の違いは、パルテノンの方が早く造られたからかとも思ったが、ほぼ同時期に造られている。
格間といっても、神像の安置されている内室の中央部ではなく、小円柱と壁の間やプロナオスなどの幅の狭い箇所に載せられていたのだろう。

実は、格間の刳り形に関心を持ったのは、ローマのパンテオンの天井を見た時だった。

パンテオン ローマ 後118-128年
ドームの半球に合わせて整然と並ぶ格間には刳り形があった。
この時も、4段の刳りは重量軽減のためだろうと思ったものだった。

ローマではパンテオンよりも時代の下がる建物の遺構に様々な形の格間あるのを見たので、格間天井というものはパンテオンが最初だろうと思った。
念のために調べてみると、『世界美術大全集5古代地中海とローマ』で前80年に格間がすでにあった。
それについてはこちら

ところが、ギリシアの盛期クラシック期には格間天井が造られ、刳り形もあることを今回の旅行で知った。
では、格間はいつ頃からギリシアで造られるようになったのだろう。

アイギナ島 アファイア神殿 前500年頃
詳しくはこちら
『世界美術大全集3』は、神像を納めたナオスの内部は2層に重ねられた2列の列柱によって3廊に区切られ、側廊の上には木造の床が張られていたという。
身廊部は床も天井もなく、木造の梁と屋根が架かっているので、このような木造の床が、やがて石造の天井板となり、重量軽減のために刳り形をつけたのではないだろうか。

しかし、もう少し以前に建立された神殿には、すでに刳り形のある格間天井があった。

パエストゥムのアテナ神殿 前510年頃
詳しい説明はこちら
『世界美術大全集3エーゲ海とギリシア・アルカイック』(以下『世界美術大全集3』)は、2層の刳形のみで構成されるコーニスの上に直接ペディメント(破風)が載っているため、レグラやグッタエ、ムトゥルスといったドーリス式固有の建築要素すら欠いているなど、随所にイオニア式からの影響を観察することができるという。
2層の刳り形というものが、前6世紀末にはすでにあったのだ。

ひょっとすると、お気に入りのコリントス遺跡のアポロン神殿(前540年頃)にも、周柱廊部には格間天井が巡っていたのかも。

        ギリシア神殿10 ギリシアの奉納品、鼎と大鍋
                                   →アカンサス唐草の最古はエレクテイオン

関連項目
アテネ、アクロポリス1 プロピュライア
アテネ、アクロポリス2 パルテノン神殿
アテネ、アクロポリス3 エレクテイオン神殿
パンテオンのドームに並ぶ格間
ギリシア神殿1 最初は木の柱だった
ギリシア神殿2 石の柱へ
ギリシア神殿3 テラコッタの軒飾り
ギリシア神殿4 上部構造も石造に

※参考文献
「世界美術大全集3 エーゲ海とギリシア・アルカイック」 1995年 小学館
「THE ACROPOLIS THROUGH ITS MUSEUM」 PANOS VALAVANIS 2013 KAPON EDITIONS