2014/04/22

アクロティリ遺跡の壁画4 ボクシングをする少年



建築複合体ベータでは2つの部屋にフレスコ画が残っていた。

B1 テルヒネス通り側のB1と呼ばれている部屋
『ART AND RELIGION IN THERA』(以下『THERA』)は、1階の質素な部屋である。部屋の南側に低い粘土の仕切りのある櫃のような物入れがあるので、聖所だったのだろう。そこから2つの供物台と壺が発見された。
建築的には、聖所は薄い壁で3つの箇所に分割されていた。つまり、主聖所のB1、収納室のB1a、準備室のB1bである。主聖所は、粉挽き小屋の広場に面して大きな窓がある。窓を通して、広場に集う人々との会話は可能だった。隣接するB2の部屋は下に食品庫があったので、食事室として使われたのだろう。
B1室は東側に入口があったという。
この部屋の壁画はアテネ国立考古博物館に展示されていた。

a アンテロープ(羚羊)
『THERA』は、おそらく他の絵画をもとに描かれたもので、画家は実際にはこの動物を見ていないだろう。絵画の完成度は素晴らしい。動物たちは単純な輪郭線によって驚くべき生命力に満ちているという。 
水墨画のよう。
『世界美術大全集3エーゲ海とギリシア・アルカイック』(以下『世界美術大全集3』)は、背景は漆喰の白地をそのまま残し、上方にのみ赤い波状の色面を配した、きわめて簡素な構図からなるという。
背景の赤い雲のようなものは何を表していたのだろう。火山の斜面の岩肌の色の違いだろうか。

bc ボクシングをする少年 275X94㎝ アテネ国立考古博物館蔵
『世界美術大全集3エーゲ海とギリシア・アルカイック』は、少年期の二人がボクシングをする様子を描いた壁画。格闘技をする男子のモティーフは元来エジプト美術の影響下にあると考えられている。だが、首飾り、腕輪、足首のアンクレットなど豪華な装身具をつけたこの少年たちには、エジプト壁画に見られるような厳密なカノン(人体の比率)は適用されていない。
少年の頭部はプロフィール(側面観)で、頭髪は一部を長く伸ばし残りは剃っているという。
アンテロープはほとんど輪郭線だけのような絵だったのに、この少年たちの絵には輪郭線がない。
ボクシングとはいうが、双方ともグラブは右手にだけはめていて、右の子はグラブをはめた右手を相手に伸ばし、左の子ははめていない左手を伸ばしている。
その想像復元図
アンテロープは部屋の3面に、計6頭も描かれていたのだ。
博物館ではこのように部屋が再現されていたはずなのに、何故バラバラにしか写していなかったのだろう。
文様帯として蔦文がすでに前17世紀中葉には存在したことも忘れないでおこう。
蔦の蔓は蛇行せず、まっすぐにのびているが、葉と葉の間という短い間隔で極端に肥痩があり、ハート形の葉も似たような形の葉柄から出ている。
B1室ではどんな儀式が行われていたのだろう。

壁画のあるもう1室は、通りから奥まったB6室。
『THERA』は、クレタにもサルの壁画はある。サルはクレタから持ち込まれたのかも分からないが、テラ島でもサルの頭骨が発見されている。
クレタでもアクロティリでも、サルは青い色で描く伝統があった。
切石建築3号から女神のフレスコが発掘されるまで、この生き物の意味がわからなかった。そこでは、サルが特別な侍者として女神の前に立っている。
建築複合体ベータのB6室は、明らかに宗教的に使用されていた容器が複数置かれていた部屋で、考古学者は聖所に違いないという。
断片の大方は、それぞれ別の方向を向いて岩を登るサルを表している。残りの物は様式化され、膨らんだ青、赤そして白の岩を表している。上方には青、赤そして白の横縞と渦巻の文様帯があるという。
他の動物やサルは横向きで描かれているのに、この一頭だけは正面向きだった。
同書は、発掘者は、サルと共に動物の頭部の断片を見付け、ウシ科かイヌ科であるとした。後に彼は、サルはイヌに追われていることが判明したという。
サル図とイヌ図の想像復元図。

おそらくこの部屋から出土した、アクロティリ遺跡唯一の金製品がこれ。

アイベックス像 前17世紀、後期キュクラデス期 金製

       アクロティリ遺跡の壁画3 舟行図
           →アクロティリ遺跡の壁画5 サフラン摘みの少女

関連項目
アクロティリ遺跡の壁画1 春のフレスコ(ユリとツバメ)
アクロティリ遺跡の壁画2 パピルスと婦人たち

※参考文献
「世界美術大全集3 エーゲ海とギリシア・アルカイック」 1997年 小学館
「ギリシア美術紀行」 福部信敏 時事通信社
「ART AND RELIGION IN THERA  RECONSTRUCTING A BRONZE AGE SOCIETY」 Dr.NANNO MARINATOS  ATHENS