2010/11/26

第62回正倉院展1 今年のヤツガシラ


エジプトを旅していて、野鳥が多いのは意外だった。そして人が野鳥を気にしないので、野鳥も人を気にすることなく、すぐ近くに飛んできたりした。

アブシンベルでは小神殿側からの帰り道、1羽のヤツガシラが近くに飛んできて、無心にエサを探し出した。なんとかピントを合わせようとしたが、慌ただしく動き回るのに下の写真程度だった。ビデオで録画し出すと一度は飛び立ったが、もっと近くに降りてきて、地面をつつきだした。ビデオには地中のムシを引っ張り出しては食べてるところが映っていた。それまでは空中でエサを捕獲するのかと思っていたので、それも収穫の一つとなった。
新疆でもヤツガシラをよく見かけたが、警戒心が強くてすぐに飛んでいってしまうので、写真に撮ってもピントが合うことはなかった。その写真はこちら
間近でヤツガシラをゆっくり見ることができたので、今年の正倉院展ではヤツガシラは期待できないだろうと思って出かけた。

銀平脱合子(琴柱や弦の容器) 正倉院北倉 径15.1高5.1
同展図録は、蓋上面には、6本の蔓を放射状に伸ばす花文の周囲に、6羽の含綬鳥と折枝文を各6箇交互に並べ、身の立ち上がりには雲文15箇を並べている。含綬鳥の意匠には数種のバリエーションがあり、オシドリとヤツガシラの存在が確認できるほか、サンジャクと推定される鳥も含まれるという。
この作品は見えなかった。低い位置に展示されているので、人越しにまず見えず、近づいても暗いので見えなかった。年々目が見えにくくなってきたので、若い頃のように目を凝らして穴の空くほど見るということができなくなり、昨今は、見難いものは図録で確かめようと、すぐに諦めるようになってきた。
また、黒地に銀というと、作った当初、あるいは手入れの行き届いていた頃は確かに映えただろうが、銀はすぐに黒くなってしまうので、こんな作品は図録で見る方がよくわかる。
ヤツガシラは上面には2羽(矢印)いた。他の種類の鳥も点対称でそれぞれに同じ種類の鳥が配置されて、3種の鳥が2羽ずつ描かれている。ところが位置は点対称でも、向きは点対称にはなっていない。もう一つこの作品の不思議なところは、異種の鳥が向かい合う対偶文となっていることだ。おそらく異種の鳥が向かい合う対偶文を3対巡らせるとこのようになってしまったのだろう。こういう配置の仕方から、これは日本でつくられたものではないかと思う。
図録には文様拡大の図版があり、蹴彫と毛彫による細く丁寧な描写が確認できる。しかし、肝心のヤツガシラの体が途中で切れているのが残念。
黒柿蘇芳染金絵長花形几 正倉院中倉 縦33.6横51.5高9.8
天板側面には金泥で花枝文及び左行する蝶鳥文を描き、華足は金銀泥で葉脈を描くとともに暈かしを入れる。
天板裏面に「戒壇」の墨書が認められ、東大寺戒壇院に納められたものであることがわかるという。
鳥は尾の長いもの短いものと2種類あるが、どちらも頭の形からヤツガシラだろう。
吹絵紙(吹絵を施した紙) 正倉院中倉 吹絵紙 縦29.5横41.0
色料を霧状に吹き付けることによって彩色された装飾紙である。文様はあらかじめ型を置いて白抜きで表されている。紙は白色で、表面には磨かれた痕跡が残る。
籬(まがき)をめぐらした樹木を中心に、鳥・鹿・蝶や、花卉、軽業師(人物が頭上にのせた棒の先に、もう一人の人物が逆立ちで乗る)を配する。文様はいずれも左右対称を意識して配置されているという。
左右対称なら同じ型を2枚つくり、表裏にして置けばよいと思うのだが、左右の文様はそれぞれに切り抜いたらしく、微妙に異なっている。
軽業師は気づかなかった。解説を読んで探すと蝶の隣に見つけた。樹木だと思っていたものだったが、蝶よりも小さいので笑ってしまった。
その下に羽を広げているのが、頭の形からヤツガシラではなだろうか。
正倉院宝物は舶載品がほとんどと思っていたが、成分分析などから9割が当時の日本でつくられたものだということになってきた。今回の目録にはどちらで作られたものか明記されていないものが多い。黒柿蘇芳染金絵長花形几は紫檀に似せて作られたので日本製だろう。
吹絵紙は軽業師というモチーフが中国的なように思う。その上、こんなに小さいのにバランスを取りながら立っている様子がみごとに表されていて、直にこのような光景を見てきた人物ならではの表現だろう。従って、吹絵紙は唐で作られたものではないだろうか。
蛇足だが、上段の鹿は宙を駆け回っているようで、クリスマスのトナカイに見える。

※参考文献「第62回正倉院展図録」(奈良国立博物館監修 2010年 財団法人仏教美術協会)