2010/06/15

ジェド柱は葦を束ねたものか?


サッカラの階段ピラミッドや南の墓地下にある青いファイアンスタイルの壁の1つのパターンが表しているものが、葦の束を何本も並べている(『砂漠にもえたつ色彩展図録』)のか、ジェド柱(『世界美術大全集2エジプト美術』)か。
ひょっとすると、葦を束ねた形がジェド柱になったのだろうか。

ジェド柱形護符 シァイク・アブド・アル=クルナ地区出土 時代不明 ブロンズ 高6.1㎝幅2.3㎝
『早大エジプト発掘40年展図録』は、ジェド柱は穀物の穂をくくりつけた竿の形をした永遠性のシンボルである。冥界を永久に支配するオシリス神と深い関わりがあった。そのためファラオの王権と、死者のあの世での安全を守るお守りとしてとても好まれていたという。
ジェド柱は葦の束ではなく、竿だった。上半分は細かい刻線があり、ナツメヤシの葉を表しているように見えるが、穀物の穂を表していたようだ。  
本来ジェド柱が穀物の穂を表したものだったとしても、時代が下がるにつれ、段々と変化していったようだ。新王国第18王朝(前1550-1295年頃)の彩文土器にはジェド柱から人間の腕が出ている。肘や掌にアンクを通して、それぞれの手にアンクやウアス杖を盛ったお椀をのせている。こんなジェド柱って何者?

ジェド柱を立てるセティⅠ夫妻の壁画 浅浮彫に彩色 新王国第19王朝(前1295-1186年頃) アビドス、セティⅠ葬祭殿
ジェド柱は大きい上に2枚の羽冠が付いている。
立てた後、右の場面(一部を撮し損ねたが)では、セティⅠが白い布をジェド柱に結び付けている様子が描かれている。ガイドさんは「ジェド柱はオシリス神の背骨」だと言っていた。
アビドスはグーグルマップでこちら 
ジェド柱の壁画 ネフェルタリの墓玄室 新王国第19王朝(前1295-1186年頃) ルクソール西岸、王妃の谷
玄室の石棺を安置していた場所を囲んで角柱が4本ある。それぞれの角柱の石棺側にジェド柱が描かれていた。
「The Tomb of Nefertari HOUSE OF ETERNITY」は、ジェド柱はオシリス神の背骨の象徴となったという。角柱の中央側にはそれぞれオシリス神が描かれている。また、前室から玄室への下降通廊の両側には人の腕が出てウアス杖をそれぞれの手で持つジェド柱が描かれている。
王妃の谷はグーグルマップでこちら
ジェド柱は護符として長々と使われたようだ。

ジェド柱形護符 ファイアンス 末期王朝時代(前600年頃あるいは以降) 高9.4㎝ 大英博物館蔵
『大英博物館古代エジプト展図録』は、ジェド柱はヒエログリフの形をとり、「永続」と「安定」を意味する。護符の所有者は、このような資質を備えることができる。もともとは枝をはらった樹木の幹を様式化したもので、本作には4本の横木がみられる。ジェド柱は、当初はメンフィスの都市共同墓地の葬祭神ソカルや、後にはメンフィスの創造神プタハと確かに関係があり、ジェド柱を建てる儀式では、ロープで巨大な柱を引っ張って直立させていたという。
穀物の穂を縛り付けた竿でもなく、枝を払った樹木の幹という説もあった。
時代が下がって巨大なジェド柱を立てるようになったのかと思っていたが、かなり古い儀式だったのだ。
この柱の形をした護符が葬祭用のものになった頃には、ジェドは死者の神オシリスにのみ関連するものとなり、その背骨と肋骨を表すと考えられた。それにもかかわらず、本作では横木のすぐ下に、ロープがはっきりと線刻されているという。
アビドスのセティⅠ葬祭殿のジェド柱にもロープを巻いたとみられる線刻があるが、そこからロープはのびていない。立てるのに必要なロープではなく、ジェド柱の一部となってしまっている。
「死者の書」第155章では、ジェド柱の護符は金で作るとしているが、本作のように再生を象徴する緑色の素材で作ることが多いという。

これを緑色と見るか青色と見るか人によるだろうが、このようなファイアンスの色が再生を象徴する色というのは、ジェゼル王の時代にすでに成立していたのだろうか。  

※参考文献
「砂漠にもえたつ色彩 中近東5000年のタイル・デザイン展図録」(2001年 岡山市オリエント美術館)

「世界美術大全集2 エジプト美術」(1994年 小学館) 
「原色世界の美術12 エジプト」(1970年 小学館)
「吉村作治の早大エジプト発掘40年展図録」(吉村作治監修 2006年 RKB毎日放送株式会社)
「The Tomb of Nefertari」(Tiba Artistic Production)
「The Tomb of Nefertari HOUSE OF ETERNITY」(John K. McDonald 1996 The J.Paul Getty Trust)
「大英博物館古代エジプト展図録」(1999年 朝日新聞社・NHK)