2009/11/20

バーミヤンにも連珠円文

 
ササン朝ペルシアで誕生した連珠円文。それを絹織物の錦として製作し、シルクロードを経由して伝えたのが交易の民ソグド人であったためにソグド錦と呼ばれているという。
連珠円文はバーミヤンにもあった。

猪頭連珠円文壁画 6-7世紀 バーミヤーンD洞(第167窟)前室 径32 ギメ国立東洋美術館蔵
『西遊記のシルクロード展図録』は、バーミヤーンD洞の前室天井は、様々なモティーフの壁画装飾で知られているが、その一つに連珠円文がある。白い珠を連ねて円環とし、その内部に真珠の首飾りをくわえる鳥、有翼の天馬、猪頭などを描いている。こうした連珠円文はササン朝ペルシアに起源があるが、7世紀前後に中央アジアに広まり、様々なヴァリエーションを生んだ。 
ササン朝ペルシアのストゥッコ造のほかに、アフラシアブの壁画、トルファンのアスターナ古墳出土の絹織物などに見られる
という。
イノシシの蒼い顔の白い斑点は見えるが、連珠文は剥落してわからない。下には円文ではなく、四角形が見える。アンティノエ出土のには上下左右に小連珠円があったが、この四角形も上下左右にあったのだろうか。 銜珠双鳥文 バーミヤン第167窟 壁画 
真珠の首飾りをくわえる鳥は双鳥文だった。白い珠を連ねた連珠円文がしっかりと残っている。
上下左右には四角形が置かれているが、その中にも四角形がある。下側の四角形を見ると外枠と内側の四角形では色が違う。内外の四角形の角を直線で繋ぐという複雑な構造になっていて、貴石の象嵌を表したようだ。
猪頭文に残っている四角形も、よく見ると同じようになっている。当初はこのような連珠円文に囲まれていたのだろう。
左右対称でない双鳥は向かい合って銜えているのは真珠の首飾りか。長い房のある首飾りを付けた鳥が立っているのは二重の連珠帯である。地面ではなく、連珠文で囲まれた台に乗っているのを表しているのだろうか。 第167窟では、壁面に連珠円文が下図のように並んでいたという。

連珠円文のうち猪頭文について『アフガニスタン文明の十字路五千年』は、サマルカンド・アフラシアブ遺跡の人物の衣服にあるものが、7世紀と比定されている。トルファンのアスターナ古墓から出土した錦に猪頭文があるが、これらは墓誌銘から7世紀代のものであることが明らかである。したがって、中央アジアでこの文様が盛行したのは、7世紀と見ることができ、バーミヤーンの壁画の文様も同時代のものとしていいのであろうという。
アフラシアブの壁画に描かれる人物の衣服はこちら
アスターナ古墓から出土の錦はこちら
おまけ

連珠円文を探していたら、こんなものまで連珠円文に見えてきた。身光が何色かの同心円になっているのでそう見えるだけなのだろうか。主文を取り巻く連珠が大きいものには、イラン出土のファレーラがあったが。

円文千仏図 7-8世紀 バーミヤン、カクラク石窟第43窟 祠堂円蓋天井壁画断片 中心の円輪長径87㎝ 国立ギメ美術館蔵 
同書は、この石窟は、八角形プランにドーム天井である。全体の中心をなす天頂の主尊は弥勒の坐像で、そのまわりの第1圏帯には16個の円形内に坐仏が求心的に配列されている。その外の第2圏帯には7個の円輪がめぐらされ、各円輪内には中心の坐仏のまわりに11個の小坐仏があり、これらがひとつの円輪構図をなしているが、中心の坐仏もまわりの小坐仏も同方向を向いている。円圏帯内の仏像群がすべて、天頂の菩薩像に対して求心的配置をなしているのである。天頂の菩薩像は、他の像に比べて大きく表現されている。
この円輪構図は、主尊の周囲の仏像が数体ずつ群別され、それらがまたひとつの円輪をなすところに特色がある。いわば、複合構図である。後の曼荼羅図案の祖型をなすものであろうという。
連珠円文を探していたら、曼荼羅図案の祖型に当たってしまった。 

関連項目
ササン朝の首のリボンはゾロアスター教
アスターナ出土の連珠動物文錦はソグド錦か中国製か
連珠円文の錦はソグドか

※参考文献
「西遊記のシルクロード 三蔵法師の道展図録」 1999年 朝日新聞社
「アフガニスタン 遺跡と秘宝 文明の十字路の五千年」 樋口隆康 2003年 NHK出版 
「世界美術大全集東洋編16 西アジア」 2000年 小学館