ホシガラスが埋めて食べ忘れた種のように、バラバラに芽を出した記事が、枝分かれして他の記事と関連づけられることが多くなった。 これから先も枝葉を出して、それを別の種から出た茎と交叉させ、複雑な唐草に育てて行きたい。
2009/08/18
組紐文の起源は蛇?
二重・三重・四重の平行線ではなく、まだらの組紐文があった。
幾何学文の石製容器 前3千年紀 マリ出土 閃緑岩 高26.2㎝ ダマスカス博物館蔵
『シリア国立博物館』は、神への奉納物は永遠に耐えうるような堅固な容器に納めなければならない、とセム系の人びとは考えたのであろうか。マリ遺跡からは奉納用の石製容器が、青銅器時代後期のものでは、溶岩で作った奉納台や奉納用容器が発見されている。
容器の表面にほどこされた浮彫りはわりあいに深い。材質も柔らかいためであろう。縁飾りとしてしばしばみられる絡縄様の意匠を主文としている。壺の形をしているのもめずらしいという。
こんなところに絡縄文様帯が主文となったものがあった。ギーラーン出土の金杯(前1千年紀前半)の組紐文の主文は、少ないとはいえ、連綿と受け継がれてきたものかも。
このまだらの帯は、見ようによっては蛇かも知れない。メソポタミアやシリアのヘビに斑点のあるものがいるのかどうかわからないが、ひょっとして組紐文の起源はヘビだったのかも。 そうそう、蛇と言えばこの壺。
蛇文の壺 初期王朝時代1期(前2800-2600年) イラク、カファジェ出土 凍石 高11.5㎝直径17.7㎝ 大英博蔵
『世界美術大全集東洋編16西アジア』は、シュメール初期王朝時代1期(前29-27世紀)には、神話から題材を得たと思われる不思議な場面が展開する浮彫り装飾が施された凍石製の容器が、各地で作られた。この作品もその一つであるという。
確かにヘビの体に斑点があった。 ところで、ウル第1王朝時代(前2600-2500年頃)の黄金の短刀には、一重の組紐文がある。マリ出土の石製容器が前3千年紀(前3000-2000年頃)と年代に幅があるため、どちらが古いのかわからない。
印影のある粘土球 蛇とロゼット文様 前4千年紀 イラン、スーサ出土 球形6.8㎝ ルーヴル美術館蔵
同書は、円筒印章が出現するや、広い範囲の曲面にも手早く捺印できる機能性が歓迎され、多くの地域で短期間のうちにスタンプ印章に取って代わった。たとえば、当時の商取引で納品書の役目を果たしていた粘土球の封印に円筒印章はうってつけだったという。
このロゼット(円花)文を囲んで交差する線がヘビらしい。
このように円筒印章を回転し続けると、長い胴体を何度も交差させるヘビになるなあ。頭部はどこにあるのだろう。
不思議なのは、ロゼット文の花弁の形や数が、それぞれに異なって見えることだ。中央の列の一番下は5弁花文に見えるし、その上は8弁花文、更に上は7弁花文に見える。円筒印章にはヘビの胴体だけが彫られ、繰り返してできた丸い空間にはいろんなスタンプ印章で花文をつけたのだろうか。 組紐文の起源は絡縄文になったヘビだろうか。ひょっとして長い首を交差させて向かい合う怪獣というモチーフの起源も、このような交差する2体の蛇を表したものかも。
※参考文献
「世界の博物館18 シリア国立博物館」 (増田精一・杉村棟編 1979年 講談社)
「世界美術大全集東洋編16 西アジア」(2000年 小学館)