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忘れへんうちに 旅編に、中央アジア各地の旅に続いて、イランの旅を記載し始めました。
その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2012/06/15

傾斜のある木棺1



契丹展は興味深い特別展だった。印象に残ったものの中に、枕元と足元で高低差のある木棺がある。

彩色木棺 内蒙古、通遼市ホルチン左翼後旗トルキ山古墓出土 木、金箔、彩色、銅、鍍金 10世紀前半 木棺:高110長231幅130 内蒙古文物考古研究所蔵
同展図録は、木製の棺と棺台で、全面にわたって浮彫や箔押し、彩色による装飾を施す。棺は外棺と内棺の2層構造である。外棺の屋根は正面と背面の板に大輪の牡丹を表し、そこに7枚の側板をあわせる。
この棺の特徴は屋根に高低差があることという。
高さの一定した木棺に、枕元は高く、足元は低く造った蓋を載せている。枕元の板は身の方と蓋の方を金具で固定している。
木棺には小さな出入口があり、両側には門吏が剣を掲げて護衛している。扉には閂がかかり、その前方には急な階段が取り付けられている。どんな信仰を持つ人が埋葬されたのだろう。
小さな風鐸を棺の蓋のあちこちにつけ、棺台にも巡らせている。風鐸は歩揺と同様に、揺れて出る音が魔除けとなったのだろう。
歩揺についてはこちら
この形はシルクロード関係の展覧会で見たような気がする。そう思って図録を開いてみると、『シルクロード 絹と黄金の道展図録』に載っていた。

四神双鳥文木棺 木製彩色 長210高99-85幅74-64 ホータン市ブザック墓地出土 五代時代(10世紀) ホータン地区博物館蔵
同展図録は、直方体の台座の上に欄干をまわし、片流れ造りの棺を設置する。こうした形制は、唐代から宋頃にかけて、中国における棺の基本的なものであった。
身の側面には、青龍、白虎、朱雀、玄武という東西南北をつかさどる四神を描き、その背景と蓋表に雲気文を配す。台の四側面には、格狭間形の窓枠の中に双鳥文を表現し、その内外に花文または花卉文を散らす。台の上板側面には、三角形が連続する幾何学文をめぐらしているという。
このような棺を「片流れ造りの棺」というのだろうか。
出土地はかなり離れているものの、同時代の同形の中国式木棺が、辺境の地で用いられたようだ。違いといえぱ、枕元の板が身と蓋に分かれておらず、一枚板で造られていることだろうか。
同時代、中原にも同じような棺があったようで、舎利容器にその形が残されている。

金高僧図舎利棺 河北省定州市静志寺真身舎利塔塔基地宮出土 北宋(10世紀) 高4.8㎝長7.7㎝ 定州市博物館蔵
『世界美術大全集東洋編5五代・北宋・遼・西夏』は、仏塔などに舎利容器を納めるときには、方形の石函に、方形の青銅(鍍金)函、屋根(蓋)が片流れになった青銅・銀・金製の槨、棺を重ね、金棺の中にガラス瓶に入れた舎利を納入するのが隋のころからの習いであった。
屋根には魚々子地に唐草文が刻まれているという。
魚々子については以前まとめましたが、契丹展で久しぶりに魚々子地のものを複数見かけたので、後日まとめます。
『契丹展図録』は、唐時代には敦煌莫高窟の仏伝図にも描かれるように、釈迦の棺もこの形であらわされ、舎利容器もこの形をとるようになったという。

涅槃経変部分 敦煌莫高窟第332窟南壁後部 初唐(618-712年)
『中国石窟 敦煌莫高窟3』は、釈迦が母に説法をする場面。釈迦の母摩耶夫人は釈迦を哀悼するために忉利天から降下した。仏は神通力で棺の蓋を開き、棺に坐って母に説法したという。 
初唐期にはすでに高低差のある棺が中国に広まっていたらしい。
この図では、蓋ではなく、棺本体の枕元が高く表されている。
舎利容器一組内 銀唐草文槨、金珠宝象嵌宝相華文棺 甘粛省大雲寺塔基地宮出土 唐(7-8世紀) 蘭州市甘粛省博物館蔵
『世界美術大全集東洋編4隋・唐』は、石函の側面には長文の銘が刻まれており、文中に「大周延載元年」(694)という紀年が含まれている。大周、周とは武則天(高宗の皇后)が称した国号であるという。
初唐期には、実際の棺だけでなく、舎利容器にもこの形が使われている。枕元の板が蓋の側と一体化していて、屋根に丸みがある。
銀唐草文槨は、唐草の隙間を魚々子が埋めている。拡大図版はこちら
銀鍍金双鳳文仏指舎利棺 陝西省法門寺真身舎利塔地宮出土 唐(9世紀)
同書は、棺や槨の蓋(屋根)が片流れになり、入口部分が高くなった構造は、もともとインドの形式であった。中国へは北魏時代に仏教とともに伝わってようやく定着し、やがて仏教だけでなく、一般的な棺の形となっていく。
唐時代になると器物や構築物の基壇として格狭間(牙象)のある台が設置されるようになる。中国では壺門座というが、銀棺は刻線で表した壺門座に載っているという。
この棺も枕元の板が一体化している。そして側板そのものにかなりの傾斜がある。
つづく

「草原の王朝 契丹展図録」2011年 九州国立博物館
「シルクロード 絹と黄金の道展図録」2002年 NHK
「三燕文物精粋」2004年 奈良文化財研究所
「世界美術大全集東洋編4 隋・唐」1997年 小学館
「世界美術大全集東洋編5 五代・北宋・遼・西夏」1998年